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3.役者

 

役者になりたかった。

 

高校に入学して、演劇に出会った。歓迎公演にひとりで行く勇気がないと知人に誘われたのがきっかけだ。その子は別の部活に入った。

 

進学校。受験前にひとつレベルを下げていたから成績は上の方だった。ただ、得意な科目で点数を稼いだだけ。苦手な科目は無理矢理詰め込んだから終わったら全部すっきり忘れた。すぐに高校の勉強についていけなくなった。当たり前だ。努力を知らなかった、大馬鹿者だ。

クラスにも馴染めなかった。馴染むつもりもなかった。人と関わるのがめんどくさい。仲良くならなければ嫌われることもない。自分を見せなければいじめられることもない。ずっと本を読んでいた。居場所はない、当たり前だ。

先生は大学(特に国立大学)を受験する人にしか興味がなかった。ひとりだけわたしを見てくれる大好きな先生がいたけれど、移動してしまった。これはまた今度。

 

わたしは大好きな演劇をやるためだけに学校に通った。舞台の上は気持ちよかった。自分以外の誰かになれるのが楽しかった。

他の人とは違う、って思ってた。「変わってる」が褒め言葉だった。

 

専門学校に入学して、そこでようやく目が覚めた。わたしは「普通」だ。才能のさの字もない、平凡な人間。気付くのが遅すぎた。

たしかに舞台は楽しかった。でも、わたしがなりたかったのは役者じゃない。「自分以外の誰か」だ。

 

先日、数ヶ月の就活が終わった。はじめて自分としっかり向き合った。苦手に気付けて、少しだけ自分を好きになれて、少しだけ受け入れられた。もう「役者」に縋らなくてもやっていける気がする。

舞台上と違って、誰かになることはできない。こんな当たり前のことに最近気付いたのだ。わたしはわたしでしかない。

自分で気付けたのは大きいでしょう?ちょっぴり遅かったけどね。いいよ、褒めとこ。

 

誰かになることはできないけれど、自分を知って、変わろうとして、ときに受け入れて、生きやすいようにはなれるかもしれない。

幸運?なことに今は希死念慮がない。生きたい。

 

どうせ生きていくなら、生きやすいほうがいい。